Was I Dreaming?

A reverie is going to be told by me.

彼への手紙

さて、君がこの手紙をちゃんと最後まで読んでくれることを祈ろう。

 

物事は自身の構造を持つ。故にその物事を知るには構造を復元する必要がある。それが可能な限りのありのままである。構造を改変して切り出したり、継ぎ接ぎにすることは怪物を生み出す作業に他ならないが、その事は理解してくれているのだろうか?

 

哲学は対等な関係に基づく社会で発達したものであり、そこで問題となるのは如何にして全体の舵取りをするかであった。すなわち、自己統治の問題である。そこには原理的に言って四つの選択肢がある。ひとつはもっとも優れた人物に統治を委ねてしまうことである。ふたつめは経験に富む熟練者たちに委ねるという方法であり、三つめは全員でする方法、四つ目は誰も何もしない、である。

集団を導くものは誰であれ、英知の導きを必要とする。とある賢者が言った様に「前提の誤りは結論の誤りを導く」とするならば、国を率いる者には正しい認識と、結論を導くための適切な方法とが必要であることになる。古代人はこうしたものを身に着ける方法を哲学と呼んだ。故にもっとも優れた哲人が王となるべきということになるのだが、それは必ずしもプラトンが論じるような者である必要はない。何故ならば彼自身が述べているように、それについての議論を知るにはそれについて知っている必要があり、プラトンの言う哲人王よりも、王そのものが優先されるからである。

そしてそのような意味での王に万民がなること、それが究極的な民主主義の理想であるのだが、現にある世界はそのようではなく、従って、そのようになるまでは次善の策が必要となるのである。

 

以下は、君の日本滞在中に幾度となく述べたことであるがもう一度、述べておこう。

ソクラテスアポロンの託宣によって自分が何者であるかを知った。ただ知を愛する者であると。しかし彼は国家に害を為すものとして裁判にかけられた。結果、彼は死を選ぶことになったのだが、この裁判はプラトンに大きな影響を与えただろう。というのも、裁判員たる市民たちは、ソクラテスをその目で見て、その言葉をその耳で聞いていたにもかかわらず、ソクラテスがいかなる者であるのか、正しく理解することができなかったからである。プラトンソクラテスを知っているので彼が何を述べているのか、その通りに理解することができたが、ソクラテスを知らない者たちは彼が何を述べているか理解できなかった。つまり、正しいソクラテスが誤ったソクラテスのイメージで断罪されたのだ。誤った認識に基づく、誤った結論であり、そうした者たちが統治するアテナイが混迷の底にあるのも当然の話であった。それ故にこそ、正しい認識と、それに基づく国家の構想が彼のテーマとなっていくのである。

 

君は哲学を愛して止まない芸術家でもあるから、プラトンがその理想郷から芸術家たちを蹴りだしたことを快く思わないかもしれないが、それはこうした経緯によるものだ。彼には事実を歪めた解釈や、そのような解釈で現実を切り刻もうとする営みが受け入れられなかったのだ。その点は私も同じなのだが、君の持つまっすぐな感性は、私が気が付かなかった多くの事を密かに示唆してくれるものであるし、君は謙遜するがその優れた目にも私は敬意を抱いているよ。

 

英知の導きがあらんことを